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ボルトはなぜ速いのか?
~ Why Do Jamaicans Run So Fast ~
 
Text by Mizuho Takahashi
 

 夏真っ盛りの08年の北京オリンピック。その中でも花形競技の男子100M、200Mにおいて他者をぶっちぎったウサイン・ボルトの姿は、日本のお茶の間の視線をも釘付けにした。なぜボルトは速いのか? いや、ボルトだけじゃない、女子100mで優勝したフレイザーもジャマイカ人だ。そう言えばカナダのベーリーもジョンソンも出生地はジャマイカのはず。なぜジャマイカ人は速いのか? そんな素朴な疑問に答えた(?)映画が登場。
 
 いきなり私ごとで恐縮だが、私の息子は半分ジャマイカ人だ。外国人を見掛けることすらない田舎に住んでいるため、面倒くさいことも少なくないのだが、彼によれば、「北京オリンピック以降は、ジャマイカについて聞かれた時の説明が楽になった」という。「レゲエの」とか「ボブ・マーリーの」と説明してイメージが湧く人の数は限られているが、「陸上のボルトの国です」と答えて胸を叩く動作をすれば、殆どの人が瞬時に理解するそうだ。それほど北京でのボルトの活躍は世界中の人々の記憶に強烈に残っている。今やボルトは、レゲエやボブ・マーリーよりも遥かにわかりやすいジャマイカの象徴らしい。
 
 北京でジャマイカは男女短距離種目で合計6つの金メダルを獲得した。そのうち3つは世界新である。世界中の人々が「カリブ海の小さな島国から、どうしてこれほど多くの優秀な陸上選手が出てくるのか」と疑問に思うのも当然だ。しかも、そこは破格に治安が悪く、貧困率が高く、社会的にも経済的にも安定からほど遠い貧しい国ときている。最新のスポーツ科学を駆使する裕福な先進国の選手が成し遂げられない記録を、この島国の若者が達成できるのはなぜか。その秘密を探っていくのが、このドキュメンタリーの外郭だ。
 
 映画は金メダルごとに各アスリートの物語を紡ぎ出しながら核心に迫っていくが、観る者は同時にジャマイカの現実も直視する。そこには悲壮な現実もユーモラスな現実もある。それらと競技シーンとアスリートの人生がリンクし、BGMとして流れる曲の歌詞と見事に交差する。音楽が常に人々の営みに寄り添っているこの島らしい、粋な演出だ。
 
 また、陸上関係者、音楽業界人(イエローマンからヴァイブス・カーテルまで)、政治家、医師、牧師、一般の人々がテンポよく登場しては、「ジャマイカの食べ物がいいから」「奴隷のDNAが生きているから」「ガリーで日常的に銃撃発砲があるから」「優れた指導者がいるから」「ゲットーのお母さんが躾に厳しいから」「根性があるから」など多様な説を展開する。そして、普通の人々が「俺たちのスター」について話すときの得意げな表情、アスリートの誇りに満ちた顔、掘立小屋のようなカントリーの家々、街中に溢れ出て踊る人々、裸足で黙々とトラックを走る子供たち、その全ての中に「答え」の断片が見えてくる。
 
 小1時間ほどの映像で、気負った問題提起もエラそうな評論家先生によるエラそうな分析もなく、「ジャマイカ人の足が速い理由」を断定するシーンもないが、何らかの形でジャマイカと関わってしまった人、今ジャマイカが気になっている人には、ぜひ一度観て頂きたいと思う。観ているうちに自分がジャマイカに惹かれる理由がボンヤリとわかり、実はそれが「ジャマイカ人の足が速い理由」と重なっていることに気がつくだろうから。

 

「ボルトはなぜ速いのか?〜Why Do Jamaican Run So Fast?」
[Pony Canyon / PCBP-11970]

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